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阪神淡路大震災時のガレキ収集で中皮腫を発症 
公務外認定取り消し訴訟
大阪高裁一審判決を覆す不当判決 上告し引き続き闘う

2022/04/22
◆高裁が一審判決を取り消す

「原判決を取り消す」。3月17日、傍聴者で一杯となった法廷に、大阪高裁の松井秀隆裁判長が発した声が響いた。言葉の意味がすぐに理解できず、皆が顔を見合わせている間に、裁判官は法廷を立ち去ってしまった。一瞬の出来事であった。

明石市職員の島谷さんは、阪神・淡路大震災で発生したアスベストを含むガレキの処理作業に従事し、腹膜中皮腫を発症した。環境事業部の職員として勤務した島谷さんは、収集業務時以外にアスベスト粉じんにばく露する機会が考えられず、2012年8月に地方公務員災害補償基金兵庫県支部に公務災害の認定申請を行った。

しかし基金支部は公務外と判断し、審査請求も棄却されたため、処分の取り消しを求め2018年1月に神戸地方裁判所に提訴したのであった。約3年に渡る審理を経て、神戸地方裁判所は2021年3月26日に、「地方公務員災害補償基金が行った公務外災害認定の処分を取り消す」との判決を言い渡した。ところが基金が控訴したため、大阪高裁において争いが続いていたのであった。


◆腹膜中皮腫に関する高裁の判断

高裁は、島谷さんが発症した腹膜中皮腫について、「高濃度の石綿粉じんばく露歴や角閃石族の石綿ばく露歴があることが多いとされ、また、胸腔内に石綿ばく露の所見(肺内の石綿繊維、石綿小体の数・濃度、石綿肺を示す肺の線維化、胸膜プラークの存在)が認められることが多いとされている」、潜伏期間についても「腹膜中皮腫として労災認定された事例における平均潜伏期間40年(最小27年)と比較しても、相当短期であると言わざるを得ない」と判断。

そして、「腹膜中皮腫は胸膜中皮腫よりも高濃度ばく露で発症すると解されているものと認められる」「石綿ばく露歴の有無が分からない割合が胸膜中皮腫に比べて多く、40%前後あるとされている」との見解を示し、島谷さんについても「石綿粉じんばく露以外の原因で腹膜中皮腫を発症した可能性があることは否定できない」と判断した。


◆島谷さんの石綿ばく露作業について

石綿による疾病の認定基準には、石綿ばく露作業について例示されている。島谷さんは明石市環境事業部の職員として、石綿含有建材等をパッカー車に積み込む際に、手で割ったり折り曲げたりした上で、回転板で細かく砕きながら積み込む作業をおこなった。これらの作業は、認定基準の「石綿製品の切断等の加工作業」「石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物」の「解体作業」に該当すると主張した。

ところが判決では「震災後に従事したがれき等の収集運搬業務が、石綿による疾病の認定基準記載の石綿ばく露作業と同視できるほどの相当量の石綿粉じんにばく露するものであったとは認められない」と判断。

「震災後の平成7年1月から平成8年3月までの間、日常的に石綿粉じんにばく露し得る環境にあったことは否定できない」しながらも、「処分場に立ち入る機会にしても月4回程度で、立ち入った時間も1回につき長くとも約10分」と誤った判断を行い、「ばく露量が多量であるとは認められない」と判断した。


◆基金の認定率の低さ

厚生労働省は、毎年、石綿による疾病の請求件数、決定件数等に関する情報を公表している。最新の2020(令和2)年度における労災保険の中皮腫の請求件数は615件、決定件数は633件、そのうち支給決定件数は607件となっている。認定率は95.9%である。過去5年間の認定率を見ても、全て95%を超えている。

一方、基金本部のホームページにも、石綿関連疾患の公務災害の申請・認定件数が公表されている。2005(平成17)年度以前の分も含め全数が掲載されている。職種別、疾病別に分類されており、中皮腫の全請求件数と認定件数を累計すると、「電気・ガス・水道事業職員」は請求34件で認定27件(認定率79.4%)。「義務教育学校職員・義務教育学校職員以外の教育職員」は、請求33件で認定5件(認定率15.1%)。「消防職員」は、請求21件で認定11件(認定率52.3%)。「上記以外の職員」は、請求88件で認定43件(認定率48.8%)となっている。

中皮腫を発症し、公務災害に申請した全件数は176件で認定された件数は86件、認定率は僅か48.8%。認定率は労災保険の半分である。


この数字からも、公務災害補償基金が労災認定基準とは違った独自の判断を行っていることが伺える。

発症した中皮腫の部位により異なる判断が行われるという今回の高裁判決を、到底受け入れることはできない。島谷さんの遺族は、3月31日最高裁に上告を行った。



【 遺族の訴え 】

今回の判決は、夫が従事した震災当時の作業内容を全く理解してもらっておらず、実際の作業環境と全く違う判断が行われており、遺族として理解できませんし、到底納得がいきません。大変残念です。






【 弁護団コメント 】

本日、大阪高等裁判所第7民事部は、故・島谷和則氏の悪性腹膜中皮腫を公務上災害と認めた神戸地方裁判所(第一審)の勝訴判決を取り消し、原告の請求を棄却するという不当判決を言い渡しました。

1 事案の概要
明石市環境事業所の職員であった島谷氏は、主にごみの収集・運搬・廃棄の業務に従事しており、粗大ごみや不燃ごみの中には石綿(アスベスト)を含有する建材や配管、家電製品等が含まれていました。
とくに、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、石綿含有建材を含む震災がれきがごみとして大量に排出されました。
島谷氏は、これらの石綿含有建材等を収集・運搬等する作業に従事したことにより、石綿粉じんにばく露し、2012年に悪性腹膜中皮腫を発症し、2013年10月15日に死亡しました。
島谷氏は生前、地方公務員災害補償基金兵庫県支部に対し、公務災害認定を請求しましたが、同基金支部は、「公務外の災害」であると認定し、島谷氏の請求を認めませんでした。

2 第一審判決
島谷氏の妻は、2018年1月10日、公務外認定処分の取消しを求め、神戸地方裁判所に提訴しました。
主な争点は、①島谷氏が明石市環境事業所での震災がれき等の収集やごみ処理業務において石綿粉じんに曝露したか、②腹膜中皮腫はこの業務に起因するものか、でした。
2021年3月26日、神戸地方裁判所は、公務外認定処分を取り消すという勝訴判決を言い渡しました。
同判決は、①島谷氏は震災時の業務で石綿にばく露し、腹膜中皮腫を発症したとするのが自然かつ合理的である、②石綿粉じんのばく露量が認定できないことを被災者に不利益に扱うべきではない、③腹膜中皮腫の医学的知見は確立しておらず、高濃度で発症するとの知見を直ちに適用するのは相当でない、④他に有力な原因がなく、公務と腹膜中皮腫の発症には相当因果関係が認められると判断しました。
しかし、基金はこれを不服とし、大阪高等裁判所に控訴しました。

3 控訴審判決(本判決)
本判決は、「本件震災の影響を考慮しても、(島谷氏が)本件震災後に従事したがれきなどの収集運搬業務によって、腹膜中皮腫を発症させる程度の相当量の石綿粉じんにばく露したとは認め難い」「(島谷氏が)本件震災後に従事したがれきなどの収集運搬業務によって高濃度の石綿粉じんにばく露したと認められない」とし、中皮腫に関する医学的知見について、「一般に、腹膜中皮腫が胸膜中皮腫よりも高濃度ばく露で発症すると解されているものと認められる」などと判示したうえ、「(島谷氏が以前に他の)職業に従事した際の石綿粉じんの間接ばく露に起因する可能性も否定できない」などと述べて、第一審判決を取り消しました。
しかし、腹膜中皮腫が胸膜中皮腫よりも高濃度ばく露でなければ発症しないという医学的知見はなく、本判決は知見に関する理解を誤っています。島谷氏は、明石市以前の職場で石綿粉じんにばく露した事実はなく、仮に他の職場で石綿粉じんに間接ばく露していたとしても、公務との相当因果関係が否定されるものではありません。この点においても、本判決は誤りであるといわざるを得ません。

4 中皮腫と公務災害認定
中皮腫は、中皮細胞の存在する胸膜、腹膜等に発生する腫瘍(がん)です。中皮腫の大多数は、石綿ばく露によることが医学的知見として確立しており、石綿肺や肺がんと比べて、少量、短期間の石綿ばく露でも発症します。
公務災害の認定基準は労災認定基準を準用しており、中皮腫は、石綿ばく露作業の従事期間が1年以上ある場合には、業務上(公務上)の疾病として取り扱われます。胸膜中皮腫と腹膜中皮腫とで認定要件に区別はありません。
腹膜中皮腫の場合に、石綿粉じんの高濃度、長期間のばく露を要件とすることは、医学的知見に基づかない誤った判断であるのみならず、被災者救済の途を不当に制限するものといわざるを得ません。

5 最後に
島谷氏は、震災時には、自身や家族も震災被害を受ける中、混乱した市民生活を一刻も早く正常化させることを優先し、粉じんまみれになることも厭わず、石綿含有建材等を含む震災がれきを収集しました。自らの職責を懸命に全うした結果、島谷氏は石綿粉じんにばく露し、悪性腹膜中皮腫を発症したのです。
今回の大阪高裁判決は、アスベスト被害の救済を後退させるものであって、容認できるものではありません。
今後、最高裁判所において正当な判断が下されるべく微力を尽くしたいと考えます。


2022年3月17日

アスベスト訴訟関西弁護団
弁護士位田浩、弁護士吉田浩司、弁護士山中有里

 

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