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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

悪性胸膜中皮腫 不支給とされたが新たな証拠を提出し、自庁取消しで労災と認定 加古川署

2013/08/20
◆概要

悪性胸膜中皮腫と診断され、20082月に亡くなられたAさんのご遺族は、2008年夏に労災申請を行ったが、加古川署は「悪性胸膜中皮腫と診断するのは困難」との理由で不支給、審査請求も棄却となった。ところが、並行して申請していた環境再生保全機構からは、20116月に「中皮腫」であるとの認定通知が届いたのであった。そこで、新たな医学的所見を提出することで、不支給処分が取り消され、改めて労災であると認定されたのである。


◆「悪性胸膜中皮腫の疑い」

Aさんは、1956(昭和31)年にK株式会社に入社し、1997(平成7)年に退職するまでの約40年間に渡り、鉄スクラップの切断・加工作業に従事されました。2007(平成19)年の秋に体調不調を訴え近院を受診したところ、H医大病院を紹介され「悪性胸膜中皮腫の疑い」と診断されたのでした。既に腹部にも転移しており、20082月にお亡くなりになりました。Aさんのご遺族が、当センターに相談に来られたのは、その年の夏前でした。さっそく同僚のお宅を訪ね、作業内容に関する聞き取りを行ったのでしたが、最初のお宅では「仕事でアスベストは使用しない」と言われました。もう一人の同僚からは「スクラップとして工場に搬入される鉄骨には、アスベストが付着していた」「アスベストを手で掻き落とし、切断していた」との証言を得ることができました。また、アスベストで労災認定された人が居る(肺がん)ことも、その方から聞かされたのでした。


◆労基署の判断

200812月に加古川労働基準監督署に労災申請を行いましたが、20098月に「当該労働者に発症したとされる悪性胸膜中皮腫については、医学的因果関係が認められない」として不支給処分の通知が届きました。作業内容については、鉄スクラップに付着した石綿にばく露したことが認められましたが、問題は医学的所見でした。H医大病院の主治医は胸水穿刺にて悪性胸膜中皮腫と診断したのであったが、地方労災医員の二人の医師は、「(H医大の主治医が)胸膜中皮腫とするのは胸水細胞診の所見にもとづくものであり、組織診や免疫染色に基づくものではなく、中皮腫とするには矛盾点が多い。」「免疫染色も行われておらず、この所見だけをもって胸膜中皮腫と診断するのは困難であると考えられる。」との意見でした。


◆審査請求の判断

そこで、H医大病院の主治医と面談し、伺った意見を基に意見書を作成し、審査官に提出したのでした。しかし、20102月に届いた決定書の内容は、「棄却」でした。

審査官は調査に当たり、H大学の病理医教授に胸水の染色標本を提出し、再染色の実施と意見を求めました。その回答は、「中皮腫を示唆する所見ではない。」「免疫染色を行う必要なない」でした。そして、「被災者が発症したとされる胸膜中皮腫は、X線等所見や検査結果からは胸膜中皮腫との診断が確定したものとはいえず、…業務上の事由によるものとは認められない」と結論されたのでした。そのため。労災の手続きについてはここで断念したのでした。


◆環境再生保全機構の判断

加古川労基署の不支給処分が決定した直後の20099月に、環境再生保全機構に対して特別遺族弔慰金と葬祭料の請求を行いました。環境省では、診断書・細胞診報告書・X線画像・CT画像により審議が行われましたが、提出された細胞診診断書において免疫染色が行われていなかったことから、再染色が行われました。審査分科会での審議が繰り返され、20111月の判定小委員会において中皮腫と判定され、Aさんのご遺族の元に認定の通知が届いたのはその年の6月でした。H医大病院で「悪性胸膜中皮腫」と診断され、労基署では「中皮腫ではない」と言われ、環境再生保全機構では「中皮腫」と判断され、Aさんのご遺族は「主人の死因はいったい何なの」といった疑問が膨らんでいきました。


◆今回の判断

そこで、環境再生保全機構の審査分科会及び小委員会の会議録を入手し、認定通知書と一緒に兵庫労働局に提出し、「処分時にない新たな資料が見つかった」と再調査を求めたのでした。20118月のことです。

その後、何度問い合わせても「再調査中」との回答しかありませんでした。が、本年5月に「新たな医学的所見により、悪性胸膜中皮腫と判定されたため、疾病と業務との相当因果関係が認められ、当初の不支給決定処分を取り消しのうえ、支給決定といたします」との、決定通知が届いたのでした。Aさんが亡くなられてから5年が経過していました。

中皮腫は診断が困難な疾病であるため、病理組織検査に基づく確定診断がなされることが重要です。H医大病院が、病理組織検査に基づかずに「中皮腫」の診断名をご家族に告知したことには問題があります。しかも、免疫染色も行っていないだけに、なおさらです。今回、環境省の石綿健康被害判定小委員会において、細胞診の免疫染色が実施されなければ、Aさんが発症した疾病の病名は未だに不明のままであったでしょう。

Aさんのご家族は、「主人にアスベストが原因だったと報告できる」「ほんとうに諦めなくて良かった」と話されていましたが、5年の時間が言葉の重さとしてこもっていました。