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◆ハラスメントは人権侵害である
高尾氏は、「ハラスメントは単なる職場内のトラブルではなく、人権侵害として明確に捉えなければならない」と強調した。厚生労働省が2025年6月に発表したデータによると、ハラスメントを原因とする精神障害の労災認定件数は年々増加しており、特に顧客や患者からの暴言、過度な要求などによるカスタマーハラスメントの被害は、わずか1年で倍増する深刻な状況にあるという。うつ病や不眠症などの精神疾患を発症する労働者が増え続ける現状に対し、「職場のパワハラだけでなく、顧客や利用者からの不当な言動も重大な人権侵害として認識する必要がある」と語り、早急な対策の必要性を訴えた。
◆パワハラの5段階構造
講義の冒頭では、パワーハラスメントを理解するための法的枠組みとして、高尾氏は①企業秩序違反、②事業主の対応義務、③労災認定、④民事上の不法行為、⑤刑事罰対象、という5段階構造を示し、それぞれの関係性を具体的に説明した。これらの段階は独立して存在するものではなく、最も重い刑事罰に該当する行為は、多くの場合その前段階のすべての要件を満たしており、事業主がグレーゾーンを放置することは重大なリスクを伴うと警告した。さらに、パワハラ防止法に定められた定義を確認し、「職場での優越的関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動によって就業環境を害する場合にパワハラが成立する」と解説した。そのうえで、「パワハラは上司から部下への一方通行とは限らず、部下が専門知識やスキルを背景に上司を追い詰める“逆パワハラ”も起こり得る」と指摘した。
◆ 6類型に見るパワハラの現実
厚労省が定めるパワーハラスメントの6類型(①身体的攻撃、②精神的攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害)をもとに、職場で実際に生じる事例が紹介された。「やる気がないなら辞めろ」といった発言は、本人の改善を目的とした指導ではなく、人格を否定する言葉でありパワハラに該当する可能性が高い。また、一見すると教育的な意図を持っているように見える指導であっても、本人に過度な恐怖心や孤立感を与える場合はハラスメントに該当する可能性があるとし、「目的と手段のバランスを欠いた行為は、教育の名を借りた暴力にすぎない」と厳しく指摘した。
◆裁判例が示す「社会通念上の限度」
講義では複数の裁判例を通じて、どのような行為が社会通念上許容される範囲を超えるのか具体的に示された。倉敷紡績事件(大阪地裁2023年12月22日判決)では、上司が部下に罵声を浴びせ続けた行為が不法行為として認定された。一方で、医療現場における厳しい指導が「業務上の必要な指導」と判断されたケースも紹介された。しかし、2025年9月に最高裁で判決が示された糸島消防本部事件では、「現場の特性を踏まえても暴力的言動は正当化されない」と判断し、懲戒処分が妥当であると判示した。人命が関わる厳しい職場であっても、不適切な指導を容認してきた従来の考え方に一石を投じた。この判決について高尾氏は、「社会全体がハラスメントに対する感度を高め、職務の厳しさを理由に人権侵害を正当化する時代は終わった」と述べた。
◆グレーゾーン対応と相談体制
高尾氏は、「パワハラかどうか判断が難しいグレーゾーン事例であっても、事業主は必ず相談を受け、事実確認と再発防止策を講じる義務がある」と説明した。厚労省の指針では、明確なハラスメント以外にも“相談対応義務”が明記されており、組合や社内相談窓口が果たす役割は非常に大きい。相談を受ける際に、被害者の感情を否定せず、まず共感をもって聞く姿勢が何よりも重要であるとした。そして、厚労省の「明るい職場応援団」サイトにおいて、実際の聞き取り方法やチェックリストが公開されていることが紹介された。「正しい知識と共通認識を持つことが、職場全体の安全網を作る第一歩になる」と述べた。
◆義務化が進むカスハラ対策
後半では、近年急増する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対応についても解説が及んだ。2024年6月の法改正により、すべての事業主にカスハラ防止措置が義務付けられることが決まり、2026年初頭の施行を目指して準備が進められている。医療・福祉・接客・行政など、人と直接向き合う職場では、暴言や理不尽な要求に悩む職員が後を絶たない。高尾氏は、東京都の防止条例や三重県桑名市の「加害者の氏名公表制度」など先進的な自治体の取り組みを紹介し、「顧客の立場を理由にした言動であっても、相手を傷つければハラスメントにあたるという意識を社会全体に根付かせる必要がある」と語った。
◆尊厳を守る職場へ
講義の締めくくりで高尾氏は、「パワハラもカスハラも、被害者を孤立させないことが最も大切です。たとえ小さな発言でも、それが積み重なれば人を深く傷つけることがあります」と訴えた。ハラスメント防止は単なるコンプライアンス対応ではなく、誰もが尊厳を持って働ける社会をつくるための文化変革であると強調し、「人を責める前に、相手の立場を理解し、寄り添うことから始めてほしい」と語りかけた。
会場を後にする参加者たちは、学びを自らの職場に持ち帰り、日常のコミュニケーションを見直す決意を胸にしていた。法の整備とともに、働く人々の意識改革が進むことが期待される。