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ペット斎場での火葬業務
「作業憎悪喘息」を発症し死亡 労災認定

2025/12/22
長崎県大村市にあるペット斎場で火葬業務に従事していた男性(45歳)が、セラミックファイバー(イソウールBSSRブランケット)を含む燃え殻を吸引後に喘息を発症し、2020年8月に死亡した。その後、遺族が諫早労働基準監督暑に労災申請したところ、 「作業憎悪喘息」として業務上の認定を受けていたことがわかった。


◆死亡に至る経過

被災者のAさんは、2011年に廃棄物収集作業員としてB社に入社した。その後、B社の人手不足のために、2019年から20年頃よりペッ卜斎場において火葬業務も担当するようになった。
2020年8月17日、Aさんは小型犬の火葬業務を担当。その日の帰宅後に自宅で酷く咳き込み、家族には「翌日医療機関を受診する」旨を告げていた。
翌18日の夕食中、Aさんは家族に「(昨日)火葬場の掃除を1時間ぐらいしていて調子が悪くなった。セラミックファイバーを吸ったかもしれない。それが原因で苦しいのかもしれない。マスクをしていればよかった」と話していた。
それからもAさんは食事を続けていたが、暫らくしてからドンという音がし、家族が気付くとAさんは椅子から転倒し意識を失っていた。すぐに病院に救急搬送され、蘇生措置がなされたが、病院に到着してから30分後に死亡が確認された。蘇生措置をおこなった医師は「死亡原因は不明」とのことであった。
その後、警察から連絡があり、検視官が自宅を検視し、大学病院において法医解剖が行なわれることになった。


◆死体検案書の死亡原因が変更に

8月19日、大学において死亡原因を明らかにするために法医解剖が実施された。その結果、発行された死体検案書には「急性心臓死」と記載されていた。
しかし、警察からは「アレルギー検査をしているのでもう少し時間がかかる」との連絡が入った。そして10月になり、遺族のもとに警察から「検査が終わった」と連絡があり、大学病院の医師から死亡原因について説明を受けることになった。
大学病院の医師からは、「前回の解剖結果は誤りでした。申し訳ありませんでした」と謝罪があった。そして新たな死体検案書には「直接死因  作業憎悪喘息」、その原因について「セラミックファイバー吸引」と記載されていた。
警察がB社の社員からの聴取した内容が大学病院に伝えていたためと思われるが、  「セラミックファイバーを含む燃え殻を吸引後、咳嗽(がいそう)・暖声(させい)・呼吸困難が出現した。」と記載されていた。更に、顕微鏡検査の結果「肺胞にセラミックファイバーの存在を疑う」とも記載されていた。
大学病院の医師は遺族に、「使われ始めたばかりのセラミックファイバーなので、前例がない。非常に稀な例である。日本で初めてかもしれない。今後、授業や学会でこの症例を使用していいですか?」と問うたのであった。


◆代替品による健康被害

アスベストの代替品として使用されるようになった「リフラクトリーセラミックファイバー」(RCF)という人造鉱物繊維は、エ業炉耐火材の高温断熱ウールとして使用されてきた。ところが健康安全性が欧米において議論されるようになり、その代替として「アルカリアースシリケートウール」(AES)が使用されるようになった。
しかし、AESはRCFよりも結晶化の温度が低く、加熱後の繊維が硬く、脆くなりやすい。そのため、「現場取り扱い時にちくちくしたり肌がかぶれたりする、粉塵が多い、などの作業環境の悪化が明らかになった。AESはRCFに比べ繊維が太く皮膚への刺激性が強く、また繊維が折れやすいため粉塵が多いことが報告されている」(小松憲司「生体内低残存性高温断熱ウールの開発」)。
B社の斎場では、以前はRCFの「イソウールブランケット」を使用していたが、2019年3月以降はAESの「イソウールBSSRブランケット」に変更した。この「イソウールBSSRブランケット」は特定化学物質障害予防規則の規制対象外ではあるが、安全データシートには、「粉じん中に吸入性繊維が含まれるので、長期間にわたり大量に吸引すると呼吸器系障害が生じるおそれが考えられる。」「本製品を取り扱うと少量の遊離けい酸が含まれる粉じんが発生する場合がある。遊離けい酸はじん肺を生じる作用があるため、この粉じんを吸引することがないよう注意する必要がある。」と記載されている。


◆原処分庁の判断

Aさんのご遺族は、2021年3月に諫早労基署に遺族補償年金等の請求をおこなった。請求用紙の「災害の原因、発生状況」欄には、「ペット斎場で骨壺や棚等の拭き取り作業を1時間程度行った。その際、火葬炉のセラミックファイバーのシートを替えた事を知らず、マスク着用を行わなかった。その後、咳嗽・暖声・呼吸困難が出現し、作業憎悪喘息発作により死亡。」と記載した。
諫早署の担当者は地方労災医員との面談をおこない意見を求めた。地方労災医員は、「直接死因の作業憎悪喘息とは、見慣れない傷病名であり、同僚には症状が出ていないが、セラミックファイバーの肺胞での存在、アレルギー反応を示した所見からして、セラミックファイバーを吸引したことでのアレルギー症状と考えられ、業務との関連性は否定できないものと考える。」との意見を述べた。
そして原処分庁は、「被災労働者の心臓に異常所見はなく、肺の組織検査の結果、セラミックファイバーを吸引していたことが判明しており、気管支粘膜と肺胞の出血が認められる異常な状態であり、気管支粘膜にアレルギー症状が生じていたことが確認されている」「セラミックファイバーの粉塵を吸い込んだことにより作業憎悪喘息を発症し、喘息の重積発作により死亡に至った」と判断し、2022年5月に業務上災害として支給決定をおこなった。


◆AESへの安全対策は急務

アスベストによる健康被害が広がる中で、その代替品としてRCFが使用されるようになった。だが、RCFの健康安全性への懸念を契機にAESの開発が進められてきた。今回このAESによる健康被害が確認されたのであり、当該製品を製造及び取り扱う作業においては使用への制限を設ける必要がある。