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地震・石綿・マスク支援プロジェクト

令和7年12月 能登半島地震被災地のアスベスト調査

2025/12/22
「希望をつくろう」―。石川県・能登半島地震の被災地にこう書かれたのぼりが日本海の風に揺れていた。2024年1月1日午後4時10分、マグニチュード(M)7.6の地震が発生し、輪島市などで最大震度7を観測。死者・行方不明者594人(うち災害関連死364人、令和7年5月13日時点内閣府発表)に達し、さらに同年9月豪雨被害にさらされた。今も斜面の崩落、陥没した道路、損壊の著しい建物があちこちに見られ、復興は遅々として進まない。過疎地特有の問題も重なり、被災者がどれほど希望を渇望しているのか。のぼりを見かけるたびに、胸の奥が重くなる。
石川県によると、公費解体の進捗は2025年10月末時点で95%。数字上、解体が進んだように見えるが、解体率には含まれない「別管理建物」が約2000棟もある。ホテルなどの大規模建造物や所有者が確認できないなどの理由で解体の長期化が余儀なくされる建物だといい、ある役所の職員は「訳あり物件」と呼んでいた。石川県は2025年10月末までの公費解体終了を目指していたが、「訳あり物件」は今後も解体が続くことを示唆している。
NPO法人東京労働安全衛生センターや研究者などでつくる「震災リスクコミュニケーションプロジェクト」と「災害とアスベスト-阪神淡路30年プロジェクト」は、被災地の建物解体とアスベスト飛散の現状を追っており、2025年12月6~8日に調査に入った。阪神淡路30年プロジェクトからは、NPO法人ひょうご労働安全衛生センターの西山和宏さん、神戸新聞社特別編集委員の加藤正文さん、神戸大学文学部の末廣晃さん、本稿筆者の社会保険労務士・中部剛が加わった。現地の様子を報告する。


◆和倉温泉で続く建物解体。石綿飛散対策は万全か?

12月6日、両グループが金沢市で合流し、計8人が2台の車で七尾市に向かった。道路の復旧が進み、今年7月の調査時よりも路面の凹凸が減ったように感じた。工事用車両も列をなしている。
七尾市に到着し、吹き付けアスベストが確認された飲食店「田中屋」へ。田中屋は吹き付けアスベストがあるにもかかわらず、今年5月まで放置されたままだった。地震発生から1年以上も周辺住民がアスベストのリスクにさらされていたことになる。7月に訪れたときは白いシートに覆われていたが、すっかり撤去され、何もない状態で大きな水たまりができていた。
次に向かったのが、和倉温泉。一部営業しているところもあるようだが、人影は少ない。あちこちで解体作業が進められている。気になったのが、ビジネス旅館「過雁荘」だ。正面玄関に茶色くなった正月飾りがあった。発生時のままなのだろう。ここでは吹き付けアスベストの除去作業が続いていた。外国人作業員の姿が見えた。マスクをしていない。休憩時なのか作業中なのか分からない。
石綿飛散を防止するため負圧隔離養生がなされている。負圧隔離養生とは、石綿粉じんの飛散を防ぐため、作業エリアを密閉し内部の空気圧を外部よりも低く保つことで石綿が漏れないようにする方法だ。作業エリアの密閉が重要だが、建物を見回してみると、ところどころ密閉がされていないような箇所が見受けられる。
この現場では、①外国人労働者に安全教育が十分になされているのか②負圧隔離養生が十分なのか-こうした疑問が湧いてきた。確認する術はなく、この後、石川県庁に確認を申し入れた。
夕方、七尾市中島町の被災地NGO恊働センター能登事務所を訪問し、スタッフの増島智子さんらと意見交換をした。珠洲市のホテル海楽荘で吹き付けアスベストが確認された後、増島さんは「七尾でも数件アスベストが確認されたことがあった。(ボランティアがアスベストにさらされる恐れについて)不安がある」と話した。また、「まだ仮設住宅に入れず、待っている被災者もいる」と被災地全体の切実な現状を語っていた。


◆輪島・朝市の街並みが一変

2日目はまず輪島市の朝市へ。焼け焦げた朝市が印象に残っている。昨年8月の訪問時には焼け焦げ、立ち尽くす木も見えた。しかし、今は更地。雑草が伸び、街並みが一変していた。建物の根本から倒壊し、震災直後にその映像がしばしば報道された「五島屋ビル」も撤去されていた。更地が増え、阪神・淡路大震災後の被災地を思い出す。
次に向かったのが、珠洲市のホテル海楽荘。今年4月、震災リスクコミュニケーションプロジェクトの永倉冬史さんが、この建物からは発がん性の高い「青石綿」が露出した状態になっていることを確認し、地面にもぽたぽたと剥がれ落ちたものも見つけた。ホテルやこの周辺では多くの若いボランティアが土砂の除去作業を続けており、石綿にさらされた可能性は否定できない。現在は、真っ白い塀で囲いを作り、中には入れないようにしている。7月の訪問時、脇を流れる河川が土砂で埋まっていたが、撤去されていた。
調査最終日に珠洲市役所を訪問して確認すると、現在も青石綿は残ったままで、2025年度内の撤去を目指しているという。脇の河川は出水を繰り返し、アスベスト除去の足場を作るために土砂の撤去を優先したとのことだった。このホテルでの石綿飛散の問題はどこにあるのか。そこを明確にしないと、第二、第三の海楽荘問題を招きかねない。ボランティアが健康被害のリスクにさらされ、ホテルも再出発が遠のいた。阪神・淡路大震災でアスベストと震災の問題がクローズアップされたが、まだまだ、リスクの認識が広がったとはいえない。
珠洲市役所職員に改めてボランティアに注意喚起したかどうかを尋ねると、「していない」との返答だった。残念でならない。ひょうご労働安全衛生センターの西山さんは市の担当者に「阪神・淡路を教訓にしてほしい」といい「アスベストリスク-阪神・淡路大震災から30年」を手渡した。また、「アスベストの危険性がある建物を把握し、危険性の周知に取り組んでほしい」とも要望した。
輪島市内のある仮置き場を視察すると、赤い鉄骨にべっとりと吹き付け材が残っていた。一行の視線が一気に集まった。後日、永倉さんらが調べたところ、アスベスト含有材ではないことが判明し、ほっとした。アスベストがないことを確認した上で仮置き場に搬入したのか、不明なまま運び込みたまたま含有材ではなかったのか…。前者であることを信じたい。


◆石川県に石綿調査を要望

調査最終日、珠洲市役所と石川県庁を訪問。石川県庁では資源環境推進課2人と意見交換した。同課の担当者は「海楽荘」問題に触れ、注意喚起が十分でなかったことに言及。「ボランティアの健康管理にはもっと注意したい。今後の対策に生かしたい」などと述べた。
一行が、被災地の公費解体について、アスベスト除去の総件数と不適正事例の集計結果を求めたところ、消極的な姿勢だったため、強く情報開示を求めた。

12月8日。3日間の調査を終え、家路に。
寝床に入ると、スマートフォンにニュース速報が流れてきた。
午後11時15分、青森県東北沖を震源とするマグニチュード(M)7.5(暫定値)とする大きな地震が発生。同県八戸市では震度6強。気象庁などは巨大地震への警戒を求める「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表し、災害列島であることを改めて痛感させられた。
残念ながらアスベストがこの列島からなくならない限り、震災アスベスト問題は後を絶たない。