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地震・石綿・マスク支援プロジェクト

2020地震・石綿・マスク支援プロジェクトin神戸

2020/01/11
◆概要

2020年1月11日、神戸市勤労会館大ホールにおいて、「震災とアスベストを考えるシンポジウム」を開催した。県外からの方も含め約230名の参加があった。

阪神淡路大震災から25年を迎えるが、震災を経験していない若者が増え、改めて記憶を記録とし、経験や教訓を継承することが求められている。震災アスベスト問題もその一つである。また我が国は地震大国であり、今後発生が予想される東南海地震等におけるアスベスト対策が求められており、それは行政だけでなく一人一人の住民の課題でもある。

そのため、震災25年を節目として、さらに震災から30年、40年後を見据えたアスベスト対策の取り組みが重要になっていると考える。そこで、震災アスベスト間題について、2020年を活動の再スタートと位置づけ、昨年5月から実行委員会を結成しシンポジウムの準備を進めてきた。

◆マスクプロジェクトの再発進

アスベストによる健康被害が顕在化したのは2008年3月であった。震災後の復旧・復興工事に従事した労働者が中皮腫を発症し、姫路労働基準監督署が労災認定したことが大きく報道された。アスベスト被害は潜伏期間が長いことが特徴であるが、その後も震災の復旧・復興工事等に従事した労働者が中皮腫を発症した事例が続き、既に5名(安全センター調べ)が労災・公務災害認定を受け、元明石市職員の遺族が公務災害の認定を求めて係争中である。潜伏期間を考えると、これからの時期において被害が顕在化することが大いに懸念される。

私たちは、2008年3月の「震災アスベストホットライン」の皮切りに、震災とアスベストをテーマに、アスベストセンターや東京センターの皆さん方たちと連携し様々な取り組みを行ってきた。特に2008年に提起された「地震・石綿・マスク支援プロジェクト」に賛同し、①アスベストに関する基本的な知識を広め、予防のための環境教育を行う、②アスベスト用防じんマスクの備蓄を推進、③子ども向け防じんマスクの開発・促進、を取り組んできた。

神戸においては、毎年1.17を中心にシンポジウムの開催や街頭でのアスベスト用マスクの配布活動を行ってきた。そして震災20年の年には、神戸大学・立命館大学・兵庫県下の労働組合等の皆さん方と共に実行委員会を結成し、震災とアスベストをテーマに3万人アンケートを実施し、市民の不安な思いを行政に反映させる取り組みを行った。他にも、東日本大震災や熊本地震等が発生した際には、アスベストセンター等と共に被災地においてマスクの着用を呼びかけ、研修会を閲催する等のマスクプロジェクトを、各地で展開してきた。

この数年は、台風や豪雨により住宅に使用されていたアスベスト建材が流され、飛ばされる事例が増え、破砕された石綿建材が災害瓦礫として仮置き場に集積されることによるアスベスト飛散も懸念されるようになってきた。日本では新たな使用が禁止されたアスベストではあるが、様々な災害によるアスベスト飛散が課題となっており、マスクプロジェクトの全国展開が望まれていた。


◆警察官の公務災害認定―その理由

2020年1月10日の神戸新聞朝刊は、「見回りの元警官死亡は公務災害」「石綿禍活動1ヵ月で認定」と一面トップで報じた。兵庫県警の元警察官が2018年3月に悪性胸膜中皮腫を発症し公務災害と認定されたが、その認定理由が分かったという内容である。

現在、悪性腹膜中皮腫を発症した元明石市職員の遺族が、公務災害の認定を求めて地方公務員災害補償基金を被告とし、神戸地方裁判所で係争中である。その訴訟において、原告側が元警察官の認定理由の開示を求めたところ、神戸地裁が基金に対して文書提出命令を出し、その内容が明らかになったのである。元警察官は、阪神淡路大震災が発生した1995年1月下句から約1か月間だけ長田署に派遣され、救護・警戒活動で街頭を歩き、建材などに含まれるアスベストを吸引したと認定されていた。いわゆる石綿ばく露作業には従事していないのである。基金は、作業期間が短く、石綿のばく露は少量であるが、周辺の大気からは毒性の高い青石綿や茶石綿が検出(95年6月)されており、悪性胸膜中皮腫を発症する可能性があると判断したのである。

基金の判断は、被災地における石綿ばく露労働者の補償・救済の幅を広げると評価できる。一方で、公務災害と認定された元警察官と同じように、約1か月間だけ被災地で活動した労働者・ボランティア・市民の数は数十万人に上る。そうすると、数十万人の人たちへの健康対策が緊急の課題となっているのである。


◆公表されなかった石綿数値

シンポジウムの基調講演は、熊本学園大学の中地重睛氏が「阪神淡路大震災におけるアスベスト飛散の検証」と題して行った。中地氏も阪神淡路大震災の被災者であるが、震災直後からアスベスト飛散に関する調査を実施し、行政への働きかけを行った。独自にアスベスト濃度の調査を行い、神戸市灘区の解体現場では160から250本/L(当時、全国の住宅地の平均値は0.15本)を検出し警鐘を発した。

国は震災後に環境モニタリング調査を行い「間題なし」と発表したが、講演において中地氏は「国の調査報告における情報開示が不十分」と指摘した。中地氏は、環境庁が兵庫県環境科学技術センターに委託し実施した「阪神・淡路大震災に伴う大気環境モニタリング調査」に触れ、「第5次調査で15.2本、21.2本、14.9本/Lとの記載があるが、報告されていない」「第7次調査で4308.7本、94.8本/Lと記載があるが、注釈がない」「第7次調査では無対策の作業現場で測定した写真があるが、注釈がない」等と指摘。

そのうえで、「行政の報告よりもアスベス卜濃度が高い作業現場があり、今後も被害者が出る可能性が高い」「震災時の被害補償のために、解体作業者や住民の登録制度が必要」と訴えた。


◆クロスロードで防災研修

今回のシンポジウムでは、初めての試みとしてクロスロードによる防災研修を行った。
文部科学省の研究事業「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」に神戸市が協力し、平成15年3月から平成18年度に、阪神・淡路大震災において災害対応にあたった神戸市職員のインタビューが行われた。このインタビューの中で、未曽有の災害に直面した神戸市職員が対応に悩み、苦しんだ事例を短い設間にまとめ、ゲーム形式の研修としたものが、クロスロードである。

クロスロードは、防災などにおける悩ましい事例を簡単な設間とし、それについて参加者は、その事例を自らの問題として考え、YES/NOで自分の考えを示し、その背景となった経験や考え方、知恵の交換・共有を行う研修教材である。

研修においては、参加者は「正解」を求めがちだが、災害対応において、必ずしも「正解」があるとは限らない。また、過去の事例が常に正解でないこともある。単一の正解を求めるのではなく、「それぞれの災害対応の場面で、誰もが誠実に考え対応すること、また、そのためには災害が起こる飢から考えておくことが重要であること」に気づく。そして、災害対応を自らの間題として考え、また様々な意見や価値観を参加者同士が共有することを目的として作成されたのである。
※「神戸クロスワード研究会」資料より


◆震災アスベストクロスロード

このクロスロードの設閲にアスベスト閲題を組み入れたのは、神戸大学の松田毅教授のグループである。これまでに東日本大震災の被災地や、東南海地震が予想される徳島県の学校で研修を行ってきた実績がある。

今回のシンポジウムでは、約7人のグループに分かれ、4つの設間に取り組んだ。その内2間はアスベストに関するものであった。紹介すると「あなたは、解体工事の作業員。屋根や壁に古いスレートが使われている建物を急いで解体することになった。他の作業員はみなスレートを手で割っている。だが、古いスレートにはアスベストが含まれていると聞いたことがある。スレートを手で割る?」という内容である。参加者の判断は、「割る」が18.4%で、「割らない」が81.6%という結果だった。アスベストの危険性に詳しい参加者が多かったことが反映したのだろうか。

もう一門は、「あなたは、災害ボランティア。ボランティアで被災地に行った。物資を届ける車を通すためにも、ガレキの処理が急がれているが、マスクが不足している。ホコリが舞う中、マスクなしでガレキの処理を手伝う?」。参加者の判断は、「手伝う」が41.2%で、「手伝わない」が58.8%と均衡した結果だった。参加者は、それぞれがYES、NOのカードを選択した理由や考えを意見交換する。「復興に役立つためにも作業をするべき」「マスクを調達することを優先すべき」等が出され、自らと違う意見に新しい発見をしながら、防災に対する理解を深めた。


◆震災25年を再スタートに

シンポジウムの最後に、宮本憲一(大阪市立大名誉教授)氏より、「阪神・淡路大震災から25年―飛散アスベストによる健康被害を抑制するために」と題する声明を発表した。

この声明は、実行委員会が起案し、宮本憲一先生と森裕之(立命館大教授)氏に関修を依頼し、アスベストによる健康被害や来るべき大震災に備える対策など11項目を提起した。

この声明への賛同を呼びかけたところ、全国から498名と3団体から(2020年1月16日現在)賛同が寄せられた。声明は、1月17日付けで、内閣府・厚生労働省・環境省・兵庫県・神戸市に届けた。

阪神・淡路大震災から25年が経ち、官民のたゆみない努力で被災地は一見、再生を遂げた。しかし、私たちは震災が終わったとは考えていない。アスベストの長い潜伏期間を考えれば中皮腫等の発症のピークはこれからだ。

今後、震災で飛散したアスベストによる健康被害が本格化する可能性があるにもかかわらず、十分な対策がとれているとは思えない。そして、東南海地震をはじめ全国各地が自然災害の脅威にさらされながら、飛散防止の備えは十分ではない。

私たちは、阪神淡路大震災から25年を経て、今回のシンポジウムを契機に「地震・石綿・マスク支援プロジェクト」を全国展開させながら、アスベスト問題について取り組みを強めていく決意である。