NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

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名ばかり個人請負 労働者性ありと判断し労災認定

2018/02/20
◆鋼物落下による足甲部開放骨折

2017年7月、神戸ワーカーズ・ユニオンの組合員から、安全センターに1本の電話相談が入りました。「製缶工として三木市の事業所で作業に従事されていたIさんが、重さ約2tの鋼物が足元に落下して、右足甲部が鋼物の下敷きとなり、右足部開放骨折で大怪我をされた。力になってくれないだろうか。」という依頼でした。個人請負として働いていたIさんでしたが、相談概要を聞くと偽装請負の疑いがありました。

Iさんは、事故発生後に、社長へ労災の申請手続きを申し出ました。しかし、社長からは「あなたは請負だから労災保険は適用されない。」と言われ、労災申請が滞っている状況でした。そのため今後の生活の目途も立たずに、不安な状態でおられました。

◆個人請負という作業実態

Iさんは2017年4月に、アルバイトとして、鋼材をH型やL型などに組み合わせて加工する製缶工として株式会社Sで働き始めました。その後、社長から「ゴールデンウィーク明け以降も、社外工として働いてくれないか。」という申し入れがあました。社長から「待遇はアルバイトと同様の時間給2000円でお願いしたい。」と言われたIさんは、製缶工として5月以降も働くことを決めました。

しかし、Iさんが社外工として働きはじめたものの、仕事内容や作業実態は、アルバイト時代と全く変わらず、呼び名が「アルバイト」から「社外工」へ変わっただけだったのです。

製缶としての仕事のほか、塗装や溶接作業、仕上げ作業を命じられるなど、社長から作業指示や命令があれば何でも行わなければならないことが常態化していました。この他にも、社長からフォークリフトによる運搬作業や、夜間アルバイトの受入れ、当該アルバイトヘの業務説明をメールや口頭で指示されるなどして、Iさんが製缶以外の仕事で拘束される時間は増えていきました。

また、出退勤はタイムカードによって管理され、毎月の報酬支払いに関しては、社長から、「請求書の名目は請負工事一式と記載して、株式会社S宛で出すように。請求金額は、労働時間に時間給2000円を掛けて、税抜き金額を書く様にように。」と具体的な指示を受けました。Iさんは社外工とされていため、残業代はつかず、そのため時間外労働時間に対する割増賃金は一切支払われていませんでした。Iさんは、成果報酬代金として、毎月20日を締め日として請求書を提出していました。本来であれば、製作の難易度に対する報酬の支払いを受けるべきところを、Iさんは時間給に対する賃金支払いによって請負報酬が精算されていたのです。

このような就労実態と職場環境のもと働かざるを得なかったIさんは、自身の製缶の仕事がスケジュールどおりに仕事が進まないことに日々大変なストレスを受けるようになりました。

製作中の製品の納期が直前に迫るなか、Iさんは連日連夜12時間を超える労働を強いられ、休日出勤をしてもなお納期が間に合わない状況下で、次第に気力、体力ともに低下し、疲労が蓄積していきました。

ようやく納期に目途がたった事故当日の午後7時40分頃、Iさんが釣り上げていた重さ約2tの鋼物の下に潜り込んで最終作業をしようとした際、釣り上げていた鋼物がクランプから突然外れて落下し、右足甲部が鋼物の下敷きとなって右足開放骨折という大事故が発生しました。一歩間違えば、死亡事故につながる大惨事にとなったといっても過言ではないほどの大事故でした。


◆労基署は労働者性ありと判断

Iさんから相談を受け、災害発生は労働災害にあたるべきものとして、加古川労働基準監督署へ偽装請負であったとする申立書を提出しました。加古川労働基準監督署は、Iさんと株式会社Sへのヒアリングを行い、Iさんの労働者性を認め、療養補償給付および休業補償給付について支給決定をしました。

監督署は、Iさんの労働者性について以下の判断をしました。①使用従属関性について、Iさんには仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由がなかった。②Iさんと株式会社S社長とのメールのやり取りから、Iさんは事業主の指揮監督の下で労働していた。③事業主からの指示により出退勤時にタイムカードを打刻して労働時間を管理されており、拘束性があった。④Iさんがアルバイト就業以降も株式会社Sの事業主の下で継続勤務していることにより、代替性はなかった。⑤労務に対する対価として、労働時間数に時給単価を掛けた額が事業主から支払われており、労務対償性が認められる。

また、労働者性の判断を補強する要素として、Iさんが仕事で使用する道具類を除き、機械設備(クレーン、チェーン等)や資材は株式会社Sのものを使用していて、Iさんに機械、器具等の負担の事実は認められないこと、報酬は20日締めの同月25日払いであったことなどから、Iさんは事業主の指揮監督の下で労働に従事していたこと、報酬の労務対償性があったことが推認されるとして、「本件請求人(Iさん)については労働基準法上の労働者とし、請求のあった療養補償給付支給請求書については支給決定してよいものと思料する。」と結論づけました。

今回のIさんの相談は、非常に悪質な偽装請負であり、事業主の安全配慮義務違反は明らかで、事業主責任を到底免れるものではありません。労災支給決定を受けたIさんは現在もリハビリを続けておられます。一日も早い回復を祈り、当センターとして、引き続き支援をしてまいります。