NPO法人 ひょうご労働安全衛生センター

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アスベスト・中皮腫・肺がん・じん肺

高濃度の石綿ばく露が認められる肺がん死亡事例
請求期限の打ち切りの20日前に労災申請

2022/03/13
◆2003年に肺がんで死亡

今年の1月末、福岡県在住のAさんから問合せの連絡がありました。「父が2003年9月に肺がんで死亡した。父と同居していた母と弟もその後亡くなっており、遺族は長男の自分だけ。生計を一にしていなかったが補償の請求は可能だろうか?」という内容でした。

労災保険では死亡後5年が経過すると時効となり遺族補償の請求ができなくなりますが、石綿救済法では被災者が死亡して5年を経過していても特別遺族年金や一時金の請求をできる可能性があり、当センターが支援をおこなうことになりました。



◆年金記録で保温工事は3ヶ月間

相談者に取り聞き取りを行なうと、保温工として働いていたことと、2003年の春頃に呼吸困難が出現し近医①を受診し、福岡の大きな病院②で検査を受け肺がんと診断され、別の病院③を紹介され治療を行なったことが分かりました。そこで相談者には、受診された医療機関に連絡を入れカルテや画像が残っていないかを確認してもらう事と、年金記録の取得を依頼しました。

Aさんが医療機関にカルテや画像が保存されていないかを確認したところ、①の病院では「カルテ等の受診記録は最終来院日より5年」、③の病院では「カルテや画像等の保管は原則5年で廃棄」と言われ、②の病院は「入院の場合は最終来院日から原則10年だが、最終来院日から既に10年が経過しているので廃棄済み」との回答でした。ただ③の病院には、診療記録の「退院時要約」が残っていました。この「退院時要約」の開示を受けることで、病歴や治療経過に関する情報を入手することができました。

年金の記録については、Aさんが年金事務所に行き、被保険者記録照会回答票を入手しました。回答票を見ると、昭和35年から41年までは「国民年金」、昭和41年7月から10月まで3ヶ月間は「B熱学工業」の記録がありましたが、それ以降は「国民年金」と記載されており、就労状況に関する情報を得ることはできませんでした。


◆残されていた記録

そこでAさんにお父さんの遺品を調べてもらい、面談の際に持参していただくよう願いしました。

面談の日、Aさんは大きな鞄一杯に、お父さんの日記や作業手帳、名刺や社員証などを持ってこられました。お父さんは几帳面な方だったようで、日記や作業手帳については1966(昭和41)年から書かれていました。またご遺族も大切に保管されていたのでした。

日記や作業手帳、資料を読み込んでいくと、遅くとも1965(昭和40)年4月より1994(平成6)年1月までの約30年間に渡り3つの事業所で働いていたことが分かり、「給与所得の源泉徴収票」や「給料袋」の一部も残っていました。作業手帳には、毎日の作業現場名や場所が記載されており、「配管」「ダクト」「石綿」・・・等の記載も随所にありました。

また、勤務時間中に体力テストが行なわれ、その際に幅跳びを行なったときに両足が滑り腰部周辺を強く打ち付けるケガをしていた事が分かりました。遺品には、約5ヶ月間にわたり労災保険の休業補償をうけており、労働基準監督署からの支給決定通知書と障害11級の一時金支給決定通知書も残されていました。

これらの記録を総合すると、Aさんのお父さんは労働者として約30年間に渡り、保温・熱絶縁工事に従事していたことが充分推認できました。


◆相当高濃度の石綿ばく露作業を推認

肺がんの場合、石綿以外の原因で発病することがあり、労災認定に当たっては石綿にばく露したことを示す石綿肺や胸膜プラークなどの医学的所見が必要とされています。

しかし、今回の相談のように、亡くなられてから5年以上が経過すると、病院側もカルテや画像を保存しておく義務が無く廃棄されてしまいます。

特別遺族給付金を請求する場合、診療記録等の医証が全くない場合が想定されます。そのため、医証が全くない場合の取扱いについては、「過去に同一事業場で、同一時期に同一作業に従事した同僚労働者が労災認定されている場合や、相当高濃度の石綿ばく露作業が認められる場合には、本省あて相談されたい」となっています。

今回の相談のケースでは、Aさんのお父さんが勤務した3つの事業場は、厚生労働省が公表している石綿労災認定事業場一覧には含まれていませんでした。しかし、保温工事の作業を約30年に渡って行なっているので、「相当高濃度の石綿ばく露作業」に該当すると考えます。


◆石綿労災の請求期限撤廃を

労災保険の遺族請求は5年で時効を迎えます。アスベストの場合は、潜伏期間が長く、本人も知らないうちに石綿製品を使用したりばく露することがあり、労災保険の対象になることに気付かない場合があります。そのため2006年3月、時効を迎えた遺族が補償を受けることが出来るように石綿健康被害救済法が施行されました。

これまでに2度の法改正が行なわれましたが、現在の法律では特別遺族給付金については、「2016年3月26日までに亡くなった方の遺族」となっており、請求期限は2022年3月27日までとなっています。2016年3月27日以降に死亡した遺族の一部には既に請求権が無くなっており、本年3月28日以降は死亡から5年が経過した全ての遺族の請求権が無くなってしまいます。

そこでAさんと一緒に請求資料の準備を進め、3月7日に福岡中央労働基準監督署に請求を行ないました。請求用紙の写しに、監督署の受付印を押してもらい、Aさんは請求期限に間に合いホッとされていました。Aさんは、「私のように、請求期限があることや、その期限が今月末に迫っていることを知らない人が沢山居られると思います。国はもっと周知を行なって欲しいし、石綿労災に関しては請求期限を無くして欲しい」と訴えられていました。